第53回目は、タマガイ科のチシマタマガイ(千島珠貝)です!
本種は東北地方・能登半島以北、北海道、オホーツク海、千島列島に分布する殻長50mmほどのタマガイです。二枚貝を襲って食べる肉食性の巻き貝で、砂浜でよく見かける穴の開いた二枚貝を作っている犯人は、十中八九このタマガイ科に属する貝です。
本州の砂浜で馴染み深いツメタガイと比べ本種は螺塔が立つ一方で、やはり丸みが強く実にタマガイらしいシルエットをしています。濃淡入り混じる褐色で彩られた殻表は鈍く輝き、重厚な殻はずっしりとした重量感と滑らかな肌触りが心地よく、ふと無意識のうちに手を伸ばしてしまう、そんな魅力あふれる可愛らしい貝です。
そして非常にポイントが高いのは石灰質の蓋を持つという点であり、これにより本種は”ハイエンド・タマガイ”へと昇華します。個人的な趣味に過ぎませんが、やはり石灰質の蓋を持つ巻貝は別格です。これがピタリと隙間なく殻口に収まる様は私の心を掴んで離さず、蓋を貼り合わせる作業は標本作成時の最も高揚する瞬間となるのです。
実はこの個体、先入観から「エゾタマガイに違いない!」と決めつけていたのですが、改めて図鑑を読むと”北海道南部以南に分布”との情報が。これは私の採集地と一致せず、どうやら貝殻外観が酷似したこれら2種を見分ける方法は蓋に刻まれた溝の有無であることが分かり、私の標本はチシマタマガイであるという結論に至ったのです。ここに生貝を採集して標本を作ること、つまり同定形質が完全な標本を所有することの意義があるのです。
私事ですがこの春、ついに慣れない大都会から飛び出し、北海道に移住しました。私の暮らす道東はまだまだ朝夕の冷え込みが厳しく、今もストーブに当たりながらこの文章を書いています。冷たい潮風を胸いっぱいに吸い込み、夕陽を眺め砂浜を歩く・・・。10年ぶりに取り戻した雪国の暮らしは、ふとした何気ない日常さえもが美しく輝き、ここに来られて本当に良かったと幸せを噛み締める今日この頃です。
2024.4.26 安田 風眞
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