第59回目は、カンムリボラ科のサカマキボラ(逆巻法螺)です!
サカマキボラはメキシコ湾とアメリカ南東大西洋岸周辺浅海域のみに分布する大型の巻貝です。
本種を前にして抱く最初の感想は、なんといってもインパクトある左巻き=逆巻きゆえの違和感でしょう。螺塔の低さと大胆なシルエットも、そのインパクトに拍車をかける要因であるように感じます。ゆえに、なかなかに賛否が分かれる貝の一つではないでしょうか?かく言う私もやはりこのアンバランス感がどうしても受け入れられず、昔は良さを見出すことができませんでした。しかし年とともに好みとは変わりゆくもので、大人になってからはその奇抜さになぜだか無性に心を惹かれるのです。大きな個体では殻長300mmを超え、飾り気の無いデザインながらただならぬ圧倒的な存在感を放ちます。殻はやや厚手かつ堅牢で、手に取ると程よい重量感が心地良いタイプの貝です。今のところ、殻頂側から眺めるアングルがいちばんのお気に入り。螺塔は稲妻模様で彩られ、またオウムガイのような黄金比を感じさせる魅惑のスパイラルと、肩の突起が描く不規則なアウトラインが奏でる絶妙なハーモニーに目が離せなくなります。
その特徴的なデザインゆえか、その昔ネイティブ・アメリカンはサカマキボラの洞状の螺旋を太陽、生、死に関する観念の象徴と捉え、宗教的儀式の道具として用いていました。さらに軟体部は食料として、大きく頑丈な貝殻は生活用品や時には武器としてもフル活用していたようです。こういった歴史的な価値と希少性が評価され、メキシコ湾に面するテキサス州では州の貝として定められています。また米国郵政公社が印刷した最初の貝殻切手の一つに選ばれるわ、本種の専門書まで存在するわと、アメリカではとにかく人気大爆発の”異端児”なのです。
もうすっかり晩秋の北海道では、寒い朝には霜が降りるようになってきました。昼夜を問わず響き渡るシカのラッティングコールはやがて訪れる冬を匂わせ、秋晴れの空に舞う落ち葉に胸が騒ぎます。やはり僕は、暮らしが大変でも雪国が好きです。
2024.10.28 安田 風眞