第1回目は、アオイガイ(葵貝)についてお話ししたいと思います。
アオイガイは、カイダコ科のタコのメスが産卵のために作る不思議な貝(擬殻)です。紙のように薄くガラスのように脆いその殻は、冬の寒空に舞う雪のような美しい白色をしています。「アオイガイ(葵貝)」という名前は、2つの殻を口が重なるように並べて置くと葵の葉に形がよく似ていることに由来しています。
アオイガイは日本近海には分布していないと考えられていますが、海中を漂いながら生活しているために、一部の個体が海流によって日本の沿岸にやってきます。やがて冬の冷たい海水に耐えられなくなり、力尽きて砂浜に漂着します。これを死滅回遊と言います。地域によっては毎年大量に漂着するため、冬の訪れを告げる風物詩となっています。
私がこの貝と初めて出会ったのは秋田県立博物館でした。今から18年前の冬、名も知らぬ海から遥か秋田の砂浜に流れ着いたその貝は、少年だった私の心を掴んで離さず、その後貝の研究に取り組む大きなきっかけとなりました。
そろそろ今年もアオイガイ漂着シーズンに入ります。ぜひ砂浜に行って、美しい貝たちとの素敵な出会いを楽しまれてみてはいかがでしょうか。
2019.10.18
水産大学校 研究科 安田 風眞