第20回目は、イモガイ科のタガヤサンミナシ(鉄刀木身無)です!
タガヤサンミナシは三宅島・紀伊半島・山口県北部以南の熱帯インド-西太平洋に分布しています。殻表には褐色の下地に白い三角形で構成される緻密な幾何学模様が並び、雪を湛えて聳え立つ雄大な山々を彷彿とさせます(タガヤ山脈と呼称したいところ)。美貝が多く、いつの時代も数多のコレクターたちを魅了し続けるイモガイ科ですが、そんな中でも個人的に特に心惹かれる一種です。生時は薄いフィラメント状の殻皮に覆われていますが、これを除去するとサラリとした控え目な艶のある、素晴らしい肌が現れます。
タガヤサン(鉄刀木)とはマメ科の広葉樹で、高級家具用材として古くから愛されてきた木です。本種と直接の関係はなく、その美しさを銘木になぞらえこの名がつけられたそうです。では残りの「ミナシ」とは?それは次回イモガイが登場する時のお楽しみに取っておきましょう。文字数の都合で今回は割愛します。
イモガイと聞くと美しさよりも「危険な貝」というイメージが広く認知されていますが、その危険性は種によって大きく異なります。イモガイには簡単に書くと①虫食性 ②貝食性 ③魚食性の3種が存在します。毒の強さは①→③の順に強くなり、人身事故の事例が報告されているものは概ね②か③です。本種は②に該当し、実際に死亡例もあるいわゆる”危険種”の一つです。ちなみに言わずと知れたイモガイ界随一の悪名高きアンボイナ(非常に素晴らしい貝です、いつか紹介します)は③です。
しかし、イモガイが強力な毒矢を携えるのはあくまで彼らが生きるために獲得した手段であり、彼らの領域である海に赴く立場の我々が過剰に危険視し忌避するというのは、人間のエゴではないでしょうか。また、最強の矛を持つイモガイですら、強靭な盾と顎を持つブダイのような魚類には為す術もなく殻を砕かれ捕食されてしまいます。イモガイが生息する海では、弱肉強食の厳しい世界を生きる貝たちに敬意を払い、適切な距離を保ちつつ静かに観察に徹したいものです。
2021.5.27
安田 風眞