第29回目は、タカラガイ科のナンヨウダカラ(南洋宝)です!
ナンヨウダカラは沖縄・小笠原以南、西〜中部太平洋に分布するタカラガイです。全体的に丸みを帯びた優しいシルエットに、背面は燃える夕陽を閉じ込めたような朱色をしています。一方で腹面から前溝・後溝、螺塔の外縁は白く縁取られ、色のコントラストが非常に美しい貝です。少し陥没した螺塔と、それを囲む白い円がチャームポイント。大きいものでは殻長100mmに達する大型種で、その特有の色彩・輝きと相まってまさにタカラガイの王たる風格を放ち、古くよりコレクターを魅了し続けてきました。英語圏では「Golden cowrie(黄金のタカラガイ)」と呼ばれ、本邦でもコガネダカラの別名があります。かつては非常に高価だった貝の一つで、標本商黄金時代を象徴する一種とも言えるのではないでしょうか。しかし残念ながらこの手の美貝はやはり褪色も顕著であり、時の流れとともに薄いベージュのような色へと変貌してしまいます。そのため朱色の個体を手に入れることは容易いことではないのです。
ギリギリ分布域に含まれるだけあって稀に日本近海でも採集されることがあり、数年前には沖縄の美ら海水族館で飼育されていたことがありました。ニュースを聞いて生きたナンヨウダカラが見られるぞ!と浮き足立つも、当時大学生だった私が思いつきで沖縄へ飛ぶことは叶わず、非常に悔しい思いをした記憶があります。
ナンヨウダカラは、南国の灼けるような直射日光の下でこそ最も美しく輝くのだと聞いたことがあります。青く透き通る海からナンヨウダカラが引き上げられるその瞬間は、いつの日かこの目に納めたい憧れの光景の一つです。
2022.4.28 安田 風眞