第33回目は、アマオブネガイ科のニシキアマオブネです!
ニシキアマオブネは八丈島、紀伊半島以南の潮間帯に分布しています。岩礁に接する浜辺で日中は砂に潜って過ごし、夜になると岩をよじ登り岩に付着した藻類を食べて暮らしています。殻表は付着物が付かずつるりと鈍く光り、腹面はタカラガイ顔負けのガラスのような強い光沢を放ちます。螺塔は平らでコロコロとしたサイズ感、さらに白い軟体部に黒く丸い目が目立つあどけない顔で歩き回る様が実に可愛らしい貝です。石灰質の蓋は殻口に寸分の狂いなくピタリと嵌まり、機能美を追求したデザインに自然選択説の美しさを垣間見ます。また、写真のように殻の色彩には複数のパターンがあり、実にコレクション性が高く標本を複数所持せざるを得ない困った奴です。
昼間はがらんと寂しかった磯も、日没後に足を運ぶと岩の上に溢れかえる数多のニシキアマオブネたちに驚かされます。また本種のみならず、夜の磯にはフラッシュライトの明かりで切り取ったわずかな景色の中に、驚くほど多くの生き物たちが生を謳歌しています。一切の明かりを欠く海での夜間観察・採集には想像を遥かに上回る危険が伴うため読者の皆様にオススメすることはできません。しかし、暗闇の壁がそびえる島の夜を歩き、泳ぎ、生物たちの営みをのぞき見するその瞬間には、何ものにも代えがたい高揚感を覚えます。標本箱の中で輝く貝殻の一つ一つに、学生時代の冒険の思い出が刻まれているのです。
2022.8.31 安田 風眞