第38回目は、アッキガイ科のニセバライロバショウ(偽薔薇色芭蕉)です!
ニセバライロバショウは、フィリピン近海の深場に生息するアッキガイ科屈指の美貝です。前回、前々回とで愛を語ったイモガイ科と同様に本科もまた美麗種が多く人気が絶えないグループですが、その中でもやはり本種は一線を画す圧倒的な存在感で名声を轟かせる貝です。
扇のように縦張肋上に張り巡らされた褐色のヒレ状突起の表面には螺肋が均一かつ緻密に刻まれ、さらにこの上に放射状に白帯が走る様は遥か洋上の水平線から昇る雄大な太陽のごとき神々しさを放ちます。一方でこのヒレは光にかざせば透けるほどに薄く、指先で触れると崩れてしまいそうな、またあるいはまだ穢れを知らぬ少女の可憐さにも似た儚さをも感じさせます。それゆえに標本箱の中から取り出すことすら憚られ、触れるたびにえも言われぬ罪悪感さえ抱いてしまいます。大型のものでも殻長60mm前後とアッキガイ科の中では比較的小ぶりな本種ですが、このサイズゆえに繊細な造形美が際立ち、本種の不動の地位を確固たるものへと昇華させているように思います。
類稀なる華やかさ、そして初日の出を連想させるタイムリーさはまさに年の始まりのおはなしに相応しく今回は本種をチョイスしました。1月も末になると新年の喜ばしさも薄れてしまいますが、2023年もどうかよろしくお願いします。
2023.1.31 安田 風眞