No. 43 ハシナガソデガイ(嘴長袖貝)

 

第43回目は、ソデボラ科のハシナガソデガイ(嘴長袖貝)です!
ハシナガソデガイは台湾以南、インド・西太平洋域に分布しています。大きい個体では25cmを超える本種ですが、最も目を引く特徴は殻長の50%近くを占める水管溝でしょう。幾重にも層を成す螺塔は天を衝き、果てしなく続く水管溝が地を穿つ様は古来より神が創りしデザインと讃えられ、本種の分布地域では「女神のかんざし」と呼ばれ祭事の際に重宝された…という根も葉もないエピソードを今ここで捏造してみても誰もが信じてしまうほどに、類稀なる造形美を誇るソデボラ科の美麗種です。
殻頂から順になぞると、螺塔上部に発現する縦肋は体層を下るにつれて次第に消え、白かった殻表は淡〜濃褐色で彩られた強い光沢を帯びる滑らかな肌へと変化します。そしてその柔和な雰囲気は唐突に一変し、殻口外唇部に牙の如く張り巡らされた5本の棘と非常に長く発達した水管溝が現れるのです。5連の棘は背面から見ると滑層で丁寧に縁取られ僅かに隆起し、えも言われぬ魅惑の曲線美を描きます。個人的にはここが最も美しさを感じるポイントであり、本種を手に取る機会があればぜひフォーカスして観賞して欲しいと思います。
本種も御多分に洩れず、やはりかつては希少でコレクターたちを熱狂させた逸品でしたが、生物学の進歩、採集技術や流通網の発達等の恩恵により今では子供のお小遣いでも手に入る貝になりました。写真の個体は、小学生の頃に家族旅行で訪れた那覇は国際通りの名店・シェルランドで買ったものです。会計の際に、両親からもらったお金とはいえ自分の財布から出したのが偉いと、素晴らしいクオリティのハチジョウダカラをいただいてしまいました。そんな懐かしのお店は、2016年11月を以て53年の歴史に幕を閉じたそうです。大学生になってから知らずに再訪するも時すでに遅く・・・。かつての少年に夢を与えてくれたシェルランドに感謝と敬意を表し、誠にささやかながら今回のコラムを捧げたいと思います。
2023.6.30 安田 風眞

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