第45回目は、バテイラ科のクマノコガイ(熊の子貝)です!
本種は福島県・能登半島以南の潮間帯岩礁域に分布する、殻長30mm程度の巻貝です。殻表は真っ黒で凹凸を欠き、ややマットながらさらりと手触りの良い質感をしています。殻口は真珠層で覆われ、殻軸を中心に緑〜黄色のアクセントが入り、その美しさたるや圧巻の一言に尽きます。前回登場のスガイでも似たような感想を述べたばかりですが、殻口を上にして眺めた際の満足度は真珠層の広がりが大きい本種が遥かに勝ります。しかし、神は二物を与えないというもの。本種の蓋は有機質のペラペラのもので、高級感を欠きます。
また、スガイとは対照的に本種の殻表には付着物がないことが多く、水に濡れている時は深い黒色に鈍く輝きます。螺塔は低く、撫で肩のデザインと相まってまさしく和名の通り、ちょうど仔熊のようなコロコロとしたあどけない可愛らしさと、しかし重厚な存在感を放ちます。本種もまた、市場流通こそ滅多にしないものの昔から食卓で親しまれてきた貝の一種で「シッタカ」の名前でご存知の方もいらっしゃるかもしれません。
熊の子といえば、皆さんは仔熊を見たことはありますか?知床半島を訪れると、子連れのお母さんヒグマと遭遇してしまうことが時折あります(人にも熊にも最も危険な状況)。その中でも絶対の安全が担保された知床五湖の高架木道から、幸運にも親子熊をのんびり観察したことがあります。お母さんが笹藪の日陰で休み、ぬいぐるみのような当歳子が無邪気に雪遊びをする様子に時間を忘れて見入ってしまいました。…これ以上は”熊のおはなし”になってしまうのでこの辺りでやめておきます。まだまだ暑すぎる夏は続きます、皆様も体調管理には十分お気をつけてお過ごしください。
2023.8.22 安田 風眞