No. 47 ハナビラダカラ(花弁宝)

第47回目は、タカラガイ科のハナビラダカラ(花弁宝)です!
本種は房総半島・男鹿半島以南、インド-西太平洋の潮間帯に分布する小型のタカラガイで、タイドプールで簡単に観察できる本科の代表種の一つです。そのため初めて出会うタカラガイとなることも多く、特別な思い入れがある方も少なくはないことでしょう。また採集が容易なことから、様々な加工品となり何かと目にする機会が多い存在でもあります。
その知名度の高さゆえに「白地に花びら一枚の、シンプルで飾り気のないタカラガイ」というイメージが定着しているように感じますが、実はハナビラダカラは白い貝ではない、というのはご存知でしょうか?採集して間もない個体では、背面は青みがかった薄いグレーで彩られます。そしてここにトレードマークである2本の鮮やかなオレンジ色のラインが走り、概ねこれを境に淡いベージュへと塗り分けられます。かくの如く色彩の変化に富む本種は、十分に鑑賞に堪えうる美貝といえるのではないでしょうか。さらに大きくとも30mmに満たない可愛らしいサイズ感ながらもしっかりとタカラガイの名に恥じぬ輝きを放つ様も相まって、眺めるほどに惹かれてゆく魅力があります。確かに希少価値こそ皆無に等しく軽んじられがちな本種ですが、私は”磯の名脇役”として、本種を讃えたいと思います。
雪国に育った私はかつて、ただひたすらに南の海に憧れました。そんな少年の日に初めて訪れた沖縄で、初めて採集したタカラガイこそがハナビラダカラであり、その鮮やかな様に目を奪われたことを覚えています。日本近海産貝類図鑑にこそ男鹿半島に分布との記載がありますが、19年間過ごした故郷ではついにその片鱗すら見ることはありませんでした。秋田ラベルのハナビラダカラ、いつの日か標本箱に収めたいものです。

2023.10.25 安田 風眞
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