第48回目は、タカラガイ科のタルダカラ(樽宝)です!
タルダカラは伊豆半島以南、インド-太平洋に分布する殻長90mmほどの大型のタカラガイです。上下に伸びる形状もさることながら殻表には木目のような縞模様が浮かび、和名の通り樽のような外観をしています。
濃淡を交互に繰り返す褐色で模様を描く背面は、遠い日に追いかけた夕陽のような、何やらノスタルジーを感じさせるセピア色。そして腹面に向かうにつれて夜の帳が降り、全てを飲み込むほどの深い漆黒で覆い尽くされます。本種のような黒色系統のタカラガイにおいては往々にしてその艶やかさが強調され、顔が映り込むほどの鏡面仕上げの、凄まじい光沢を帯びます。そして本種の殻口には非常に密に唇歯が発達し、歯間に刻まれる溝には白い差し色が入ることで平坦な腹面にシャープさを与え、色彩のコントラストと表情の変化に思わずため息が漏れます。そしてやはり大型のタカラガイには他の追随を許さぬ迫力が宿り、緻密で繊細な小型種とは一線を画する存在感を誇ります。一方で本種の殻は大型種にしてはやや薄手のため、手に取ると見た目に反しその軽さに驚かされることでしょう。確かに重量感を欠くという点においては若干の物足りなさを感じざるを得ませんが、そんなことはこの圧倒的な輝きの前では瑣末な問題にすぎず、結局は手に取り見入ってしまうのです。
タカラガイは普段は外套膜という軟体部の一部で殻を包み込んでおり、ゆえに汚れや傷が付かずガラスのような特有の輝きで覆われます。この外套膜の色や模様は当然種によって異なるものですが、本種の場合は全体にイボ状の突起が発達したうえに細かい斑点が散りばめられ、初見では”触ってはいけない何かに違いない”と本能的に拒絶してしまうほどの特異な出で立ちをしています。残念ながら生時の写真を撮り損ねてしまったので、ぜひ画像検索してみてください。
余談ですがこのタルダカラは、本州最南端は南紀串本にて後輩が採集しプレゼントしてくれたものです。前々回のスイジガイしかり、ここのところ後輩たちに助けられてばかりです・・・。素敵な貝仲間に巡り合い、つくづく私は幸せ者だなと、改めて感謝を噛み締める今日この頃です。
2023.11.28 安田 風眞
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