No. 4 カノコダカラ(鹿の子宝)
第4回はタカラガイ科のカノコダカラ(鹿の子宝)です。
カノコダカラは、その名のとおり殻の表面に鹿の子模様をまとった大変可愛らしいタカラガイです。大きさは3 cmほどの小型種で、房総半島以南に分布しています。タカラガイは殻口側を「腹面」、その反対の丸く膨らむ側を「背面」と呼びますが、カノコダカラは鹿の子模様がある背面とは対照的に腹面は真っ白で、こんなところまで鹿にそっくりです。ちなみにメキシコ湾周辺にはシカダカラという大型のタカラガイがいますがこれはまた別の回で登場するかもしれません。
海で捕まえたばかりのカノコダカラは透明感のある明るい褐色の鹿の子模様をしていますが、時間の経過につれて透明感は失われ、色彩も薄くなっていきます。実はこれは本種に限ったことではなく、全ての貝に共通したことです。大変嘆かわしいことに、標本にした貝殻の色彩を完全な状態で維持することは難しく、標本箱の中でひっそりとその美しさは失われていきます。これは貝殻が大気に晒されることで発生する酸化や乾燥、紫外線による色素の劣化等、様々な原因があると言われています。貝の退色の程度は種によって様々ですが、タカラガイでは特に顕著なように感じます。退色を少しでも遅らせるために、貝は紫外線の当たりにくい場所に保存することが望ましいです。しかし、美しい貝は目の届くところに飾って毎日眺めたい。色を取るか、満足感を取るか… 優先順位の葛藤はコレクター永遠の命題なのです。
【カノコダカラ】
2020.1
水産大学校 研究科 安田 風眞