No.21 ナガサラサミナシ(長更紗身無)
第21回は、イモガイ科のナガサラサミナシ(長更紗身無)です!
ナガサラサミナシは八丈島・紀伊半島以南の熱帯インド-西太平洋に分布する中型のイモガイです。サラサ(更紗)とは木綿に多色で文様を染色した布地のことで、お察しの通り「ナガ」がつかないサラサミナシも存在します。命名者はこれらの殻表に描かれる文様に更紗を重ねたのでしょう。毎度思うのですが、生物に名を与える研究者のセンスには脱帽するばかりです。
本種は緩やかな円錐形を描く螺塔と、細身な体層のバランスが非常に美しいイモガイです。また光沢を帯びた淡〜濃褐色の殻表に浮かぶ規則的な白斑のコントラストの魅力もさることながら、手に取ると殻口下端が艶やかな紫檀色に輝く様に胸が高鳴ります。
前回のタガヤサンミナシのおはなしでもったいぶった“ミナシ”について説明しましょう。読んで字のごとく「身が無い」という意味です。イモガイの多くは殻口が極端に狭く、生きているイモガイを手に取って軟体部をつつくと(種によっては大変危険です絶対にマネしないで下さい)殻の奥に引っ込み、あたかも「貝殻」であるかのように見えます。それゆえに身無=ミナシなのです。空だと思って拾ったイモガイが実は生きていて刺されてしまう、という事故も発生しているため注意が必要です。実際にはイモガイの殻は分厚い最外層を除き(アンボイナなど一部のイモガイは最外層も薄い)内部は再吸収によって紙のように薄くなっており、見た目以上の容積が確保され軟体部が詰まっています。それでもなお、サザエのような身近な食用種と比較すると殻の大きさに対する軟体部の体積比率は非常に少ないのです。
今回は2回連続のイモガイ科となりました。これからも本科はよく登場することになるかと思いますので、全国5000万人のイモガイファンの皆様のご期待に応えられるよう精進します。
2021.6.29
安田 風眞