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No.42 ミドリイガイ(緑貽貝)

  

第42回目は、イガイ科のミドリイガイ(緑貽貝)です!
ミドリイガイはインド洋~西太平洋の熱帯域に分布し、ヨーロッパを代表する食用種ムール貝の一つとして古くから愛されてきた二枚貝です。一方で、本種はムラサキイガイと並び外来生物移入問題の槍玉にあげられる貝でもあります。本邦では1967年の兵庫県での初発見を皮切りに、現在では東京湾以南の海域を中心に移入・定着し、日本海側では山形県でも分布が確認されています。
本種はその名の通り殻表は鮮やかな青緑色で彩られ、付着物が少ない個体においては殻表が鈍くも強い輝きを放つ様に、思わず息を飲みます。特に海水で濡れた殻に光を当てるとたちまちエメラルドのごとき透明感を帯び、要対策外来種という概念をも超越した、その圧倒的な美しさに目を奪われます。
本種をはじめ様々な海産外来生物の多くは、船のバラスト水に紛れ込んだ幼生が行く先々の港でばら撒かれることで爆発的に生息域を拡大しました。バラスト水とは大型船が航海する際に船内に取り込む海水のことで、必要に応じて注排水されます。これは船体を安定させるために必要不可欠なもので、海運によって支えられる現代人類の生活とは切っても切れない関係にあります。やがてバラスト水による生物や病原体の移動という事象は時の流れとともに国際的に問題視されるようになり、2000年代になると条約によるガイドラインの策定や処理装置の搭載が義務化されるなど、現在も対策が進められています。また本種はカキやフジツボに代表される付着生物の一つであり、喫水線下にびっしりと付着することでしばしば船舶の機能低下を引き起こし、かつては「船底汚損生物」とまで呼ばれてきました。
写真の標本はとある外航船から採集された個体で、船乗りの友人がくれたものです。人間の都合に振り回され外来種だの汚損生物だのと一方的に忌み嫌われる本種ですが、せめて私だけは、この瞬間だけは、ミドリイガイにしか持ち得ないその美しさを惜しみなく讃えたいと思います。
2023.5.31 安田 風眞

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